勤め先が倒産してしまい失業した方の中には、未払いの賃金がある人もいると思います。
「会社が倒産しているのでしょうがない…」
そう思って諦めてはいませんか?
実は、「未払賃金立替払制度」という制度があり、未払いになっている賃金の8割を別の機関に立て替えてもらうことができるのです。
この記事では未払賃金立替払制度とはどのような制度なのかについて詳しく説明していきます。
立替払の対象になるためには様々な条件がある他、立て替えてもらえる金額には上限も決められています。
また、決められている期間内に手続きをしないと立替払の対象にはなりません。
本来支払われるはずだった賃金を少しでも多く受け取れるように、しっかりと手続きをしましょう。
目次
未払賃金立替払制度とは?
未払賃金立替払制度とは、企業が倒産することによって支払われなかった給与などを立て替えてもらえる制度です。
立て替えをするのは「労働者健康福祉機構」という厚生労働省所管の独立行政法人です。(2016年に改組され、現在は独立行政法人労働者健康安全機構が行なっています。)
勤め先の倒産により、未払いの賃金があるまま退職した労働者は、この制度を利用することで対象となる未払賃金の8割を受け取ることができます。
労働者健康安全機構によれば、この制度は1976年からあり、2018年の立替払支給者数は23,554人で、96億円もの立替払いが行われたそうです。
労働基準監督署や労働者健康安全機構が申請先となっており、まずは最寄りの労働基準監督署で相談をすると良いでしょう。
また、労働者健康安全機構には「未払賃金立替払相談コーナー」も設けられていて、次のような相談をすることができます。
- 倒産による未払賃金全般の質問
- 未払賃金立替払制度に関する質問
- 請求手続きの流れ
- 請求時に必要な書類
- 請求書の書き方 など
未払賃金立替払制度を利用するための条件
未払賃金立替払制度を利用するための条件は「使用者の条件」と「労働者の条件」の2つに大きく分類できます。
その両方を満たしていないと立替払の要件を満たしていないので注意が必要です。
まずは、使用者の条件について見ていきましょう。
- 1年以上事業活動を行なっていた
- 倒産したこと
使用者の要件①1年以上事業活動を行なっていた
未払賃金立替払制度の対象になるのは「労働者災害補償保険(労災保険)の適用事業であり、1年以上事業活動を行なっていた使用者」です。
原則として1人でも労働者を使用する事業であれば労災保険の適用事業に該当し、その規模や労働者の雇用形態は関係ありません。
また、使用者には法人だけでなく個人も含まれます。
ただし、「1年以上事業活動を行なっていた」というのが条件の1つなので、事業の開始から廃止までが1年未満だと対象にならない点に注意してください。
使用者の要件②倒産したこと
そして、もともとの勤め先が「倒産したこと」も重要です。
当たり前だと思うかもしれませんが、倒産には「法律上の倒産」と「事実上の倒産」の2種類があります。
- 法律上の倒産
- 事実上の倒産
勤め先が中小企業の場合には事実上の倒産でも要件を満たせます。
ただし、この場合には労働基準監督署に倒産状態であることを認定してもらわないといけないのです。
それぞれがどのようなケースなのかを確認していきましょう。
法律上の倒産とは?
次のいずれかに該当する場合には法律上の倒産となり、それぞれ準拠する法律が異なります。
- 破産(破産法)
- 特別清算(会社法)
- 民事再生(民事再生法)
- 会社更生(会社更生法)
これらのケースでは、法律上の倒産状態であることの証明書が必要です。
所定の用紙は労働基準監督署で入手でき、破産管財人などに法律上の倒産であることを証明してもらわなければいけません。
この法律上倒産していることを証明する人物を「証明者」といい、どのケースに該当するかによって証明者は違います。
詳しくは「未払賃金立替払制度により立替払を請求する手順」の中で説明するので、そちらを参考にしてください。
事実上の倒産とは?
法律上の倒産はしていなくても、事実上、倒産の状態にあるならば未払賃金立替払制度の要件を満たせます。
法律上は倒産していなくても、中小企業の事業が停止している状態であり、かつ再開の見込みもなく、賃金支払い能力がないこと。
事実上の倒産とは上のような状態で、立替払の対象になるのは中小企業のみです。
制度などによって「中小企業」の範囲が異なるケースもありますが、未払賃金立替払制度においては次の「資本金の額または出資の総額」、「常時使用する労働者数」のどちらかを満たす事業者を指します。
資本金の額または出資の総額 | 常時使用する労働者数 | |
下記に該当しない一般産業 | 3億円以下の法人 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下の法人 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下の法人 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下の法人 | 50人以下 |
また、事実上の倒産であるというための条件は次の3つに分解することができます。
- 事業が停止している状態である
- 事業再開の見込みがない
- 賃金支払い能力がない
事業が停止している状態とは、例えば、労働者全員が解雇されているような状態を指します。
これが縮小のみで、事業を継続している場合には要件を満たしません。
そして、事業再開の見込みがないと認められるには、事業を廃止するための準備を進めているなどの事実が必要です。
最後に、賃金の支払い能力がないとは「賃金の支払いに充てうる資産がなく、かつ、資金を借りても賃金の支払いの見込みがない場合」をいいます。
負債の総額が資産の総額を超えている「債務超過」の状態であるだけでは、賃金の支払い能力がないとはいえません。
これらの要件をすべて満たしているかは労働基準監督署によって審査されます。
事実上の倒産の場合、倒産状態にあることの認定を申請をし、労働基準監督署長に認定してもらう必要があるです。
労働者の要件
次に未払賃金立替払制度を利用できる労働者について説明していきます。
この制度を利用できるのは「倒産などによって未払いの賃金があるまま、退職している労働者」です。
ここでいう労働者とは労働基準法第9条で規定されている労働者のことで、パートやアルバイトは含まれますが、同居の親族に雇用されている方、家内労働法による内職等に従事する家内労働者などは含まれません。
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
労働基準法 第9条 定義
「働いている人=労働者」とは単純にいえないケースもあるので注意してください。
また、退職した時期も立替払を受けるための要件の1つになります。
倒産の種類 | 立替払の対象になる退職者 |
法律上の倒産 | 裁判所へ倒産の申し立てが行われた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職 |
事実上の倒産 | 労働基準監督署への認定申請が行われた日の6ヶ月前の日から2年の間に退職 |
この期間内の退職でないと立替払の対象にはなりません。
次章では、立替払の対象になる賃金について見ていくのであわせて確認してください。
未払賃金立替払制度の対象になる賃金とは?
記事の冒頭でもいいましたが、未払賃金立替払制度は支払われていない賃金の全額が支給されるわけではありません。
立替払の対象になる賃金には決まりがあり、さらに、実際に支給されるのはその8割です。
退職日の6ヶ月前から立替払請求日の先日までに支払期日を迎えている定期賃金と退職手当のうち未払いになっているもの
このように対象となる期間が決められており、その期間内に支払期日を迎えていないものは対象外です。
また、立替払は定期賃金と退職手当のみで、いわゆるボーナスなどは対象外なので覚えておきましょう。
未払賃金立替払制度の対象にならないもの
次のようなものは、未払賃金立替払制度の対象にはなりません。
- ボーナス(賞与、その他の臨時的に支払われる賃金)
- 解雇予告手当
- 賃金の遅延利息
- 年末調整の税金の還付金
- 実費支給の旅費などの立替払
ボーナスに加えて、年末調整の還付金や出張の旅費の立て替えなども対象にならないのは意外かもしれません。
加えて、前述の通り、定期賃金と退職手当もその全額を立て替えてもらえるわけではないです。
対象になる未払賃金には限度額があり、さらに年齢によって金額に上限が決められています。
立て替えてもらえる金額の上限
未払賃金立替払制度では、対象となる未払賃金のうち80%を労働者健康安全機構が立て替えます。
ただし、退職日の年齢によって上限が設けられており、例えば30歳未満の人は88万円までとなっています。
退職日の年齢 | 未払賃金の限度額 | 立替払の上限 |
45歳以上 | 370万円 | 296万円 |
30歳以上〜45歳未満 | 220万円 | 176万円 |
30歳未満 | 110万円 | 88万円 |
※ 平成13年12月31日以前に退職している場合は限度額、上限が異なります。
年齢ごとに未払賃金の限度額が決まっていて、その8割が立替払の上限です。(例:370万円×0.8=296万円)
未払いの賃金が多い人ほど、立替払が未払賃金の8割に満たない可能性が高くなるのです。
対象となる未払賃金が2万円未満の場合には立替払の請求はできません。
未払賃金立替払制度により立替払を請求する手順
最後に未払賃金立替払制度で立替払を請求する手順も確認していきましょう。
大きく分けると次の3つの工程で立替払の請求が行われます。
- 立替払の請求に必要な書類の準備
- 立替払請求書の提出
- 未払賃金の立替払の支払
立替払の請求に必要な書類の準備
勤めていた会社が破産など法律上倒産している場合には、その事実を証明する書類が必要です。
例えば、破産では、管財人から破産等の申立日・決定日、退職日、未払賃金額、立替払額、賃金債権の裁判所への届出額などが記載されている証明書を交付してもらいます。
倒産の区分によって、証明者が異なるので注意してください。
破産・会社更生の場合 | 管財人 |
---|---|
民事再生の場合 | 再生債務者(管財人が選任されているケースでは管財人) |
特別清算の場合 | 清算人 |
会社整理の場合 | 管理人 |
一方、中小企業が事実上倒産している場合には、労働基準監督署に申請をします。
管轄の労働基準監督署長に「認定申請書」を提出して、企業が事実上の倒産状態にあることを認定してもらうのです。
これを「倒産の認定」といいます。
ただし、すでに他の退職者が申請を行い、倒産の認定がなされている場合には必要ありません。
この倒産の認定を申請できるのは「倒産した企業を退職した日の翌日から起算して6ヶ月以内」です。
この期間を過ぎてしまうと申請ができないため気をつけてください。
証明書の発行、倒産の認定には、証拠となるタイムカード、出勤簿、給与明細、就業規則、契約書などが必要になる場合もあります。
労働基準監督署に相談しながら必要な書類などを集めましょう。
立替払請求書の提出
公布された証明書などの半分が「未払賃金の立替払請求書」および、「退職所得の受給に関する申告書・退職所得申告書」となっています。
それらに必要事項を記入したら、労働者健康安全機構へ提出しましょう。
申請期間は裁判所の破産等の決定日(または、労働基準監督署長の倒産の認定日)の翌日を起算日として2年以内です。
倒産の認定申請と同じように期限があるので注意してください。
未払賃金の立替払の支払
労働者健康安全機構が提出書類を確認・審査し、法令の要件を満たしていると確認できれば銀行振込によって立替払金の支払が行われます。
嘘の申請などによって立替払金を受け取るのは不正受給です。
その金額の2倍の額の納付といったペナルティだけでなく、刑事責任を問われることにもなるので絶対に行ってはいけません。
【まとめ】未払賃金立替払制度で最大8割の未払金を受給できる!手続きには期限があるので注意
未払賃金立替払制度を利用することで、給与などの定期賃金が未払いのまま退職した人でもその8割を受け取ることができます。
残りの2割についてはこの制度で受け取ることはできず、ボーナスなども対象にはなりませんが、該当する方はしっかりと申請をして未払賃金を少しでも多く受け取りましょう。
未払賃金の立替払を請求できる期限は決められています。
勤めていた中小企業が事実上倒産しているケースでは、倒産の認定を申請する期限もあるので注意してください。
未払賃金立替払制度は労働基準監督署、労働者健康安全機構が申請先です。
もし未払いの賃金があるなら、最寄りの労働基準監督署などで相談をして手続きを進めましょう。